“文具王”が教える文房具の魅力

“文具王”が教える文房具の魅力

怒られないおもちゃ

高畑正幸

“消しゴムの中にもうひとつ細い消しゴムが内蔵されていて、細かいところを消すときに中から押し出して使える1個で2役の消しゴム”“ケースについた窪みに針と鉛筆の先を当てることで定規がなくても簡単に5mm単位で半径を調節できるコンパス”“ふつうの手持ち型から簡単にスタンド型に変形できるルーペ”……。
 サンスター文具の企画開発を担当されている高畑正幸さんがデザインする文房具は、文房具としての基本的な機能をしっかり備えながら、使う人が思わずにやりとしたり、あっと驚いたりするような楽しくて便利な仕掛けがあるのが特徴だ。
「仕掛けがあるのが好きなんです。もともとぼくにとっての文房具は小学校に持っていっても怒られない数少ないおもちゃだったんですよ。それに普通のおもちゃと違って、“言い訳”があるからわりと自由に好きなものを買ってもらえるでしょ。工作と理科が好きな子どもが身近なおもちゃとして文房具とつきあってきて、そのまま20年立つとこんなんになっちゃうんです(笑)」

TV出演がきっかけで文具デザイナーに

高畑正幸

 高畑さんの名刺は会社のと個人のと2つある。どちらも肩書に「文具王」の文字が刷り込まれている。ご存じの方も多いと思うが、高畑さんは東京12チャンネルの人気番組『TVチャンピオン』の「文房具通選手権」で3連覇中のチャンピオン。実は学生時代に最初に出場した第2回選手権で、決勝戦を争ったのがサンスター文具の当時の企画部長だった。
「撮影の合間ってけっこう時間があるので、文房具のことをいろいろ話したんです。当時、大学院生でこれから就職活動をしなければいけないという話をしたら、じゃあ一度うちに見学しにこないかと言っていただいたのがきっかけです。工学部でデザインの勉強をしていましたから、就職先に文具業界というのはもともと考えなくはなかったんですけれど、正直にいうとサンスター文具というのは頭になかった(笑)。ファンシーなものをつくっているというイメージが強かったですから。でも、たとえばカッターナイフ専門、ステープラー専門というのではなく、いろんなものをやれるのはおもしろそうだなと。郷里の親なんか、大学院にまでいって就職もしないでぶらぶらしていると思ったら、突然『TVチャンピオン』なんかに出て、『高畑さんとこの息子は何やってんだ』みたいな(笑)。たいへんだったんですけどね。就職決まってよかったです(笑)」

全部をできるのはしんどいけど魅力

高畑正幸

「入社してみると、うちの会社は性に合ってましたね(笑)。名刺に『挑戦します企画とアイデア』と刷ってあるように、専門メーカーの思いつかないような変わったアプローチで付加価値を付けていくことをめざしている会社で、こんなこというと怒られるかもしれないけれど、アウトコース低めの変化球が得意なんです(笑)。一捻りしないと企画が通らないですから。開発に関しては、ぼくは自分が欲しいか欲しくないか、納得いくかいかないかを大事にしていて、そればっかりにこだわりすぎるってよく怒られます。ただ自分でおもしろいと思ったときにはやはりいいものができますね」
“文具王”“文具チャンピオン”という名を背負ったプレッシャー!?のなか、入社以来、5年間で高畑さんが企画した文具はグッドデザイン賞を5回も受賞している。
「企画からはじまって、原価の交渉、工場との折衝、納期管理など、倉庫に入るまでが仕事で、段ボールのデザインやカタログの撮影も自分でやります。けっこうしんどいところも多いんですけれど、車のデザイナーはどんなにがんばっても自分で全部やれる人ってあんまりいないでしょう。文房具は一人でだいたいできる。それと、できあがったものが安いので自分で買えるじゃないですか。車のデザイナーは自分でデザインしたのに買えなかったりすると聞いて、それはショックだなと」

“文具王”としての使命

高畑正幸

 最近、テレビや雑誌に登場する機会が増えた。また大学生のころから開設しているホームページでは、「究極の文房具カタログ」と題するコーナーで高畑さんおすすめの文房具を紹介。ここではライバル会社の商品もたくさん紹介している。
「僕はサンスターの社員ではあるけれども、一文房具ファンとして文房具のおもしろさを回りに知ってもらいたいという気持ちもあります。だから自分のホームページでは他社の商品でも、いいものはいいと。うちの会社にしてみれば、いらんこと紹介するなっていうのがあるのかもしれないですけれど(笑)」
 それが許されるところにサンスター文具の懐の深さを感じる。
「いや、あんまり見てないんじゃないですか(笑)。なんかやってるらしいという。だぶんそのぐらいがちょうどいいんです。あのページに関しては会社あげて応援してもらっても困るし、そうすると今度はバイアスがかかっちゃうんで、そういう意味では完全に個人でやってますということで、黙認しておいてもらえる会社でよかったなと思います」
 これからもいろいろな場所で、文房具のおもしろさをアピールしたいという高畑さん。
「高級ブランドのような大人の特権的な趣味としてではなくて、毎日使えるものとしての文房具の良さを伝えたいですね。人が考えているものを何かの形に落とすのにいちばん身近な道具が文房具です。どうせ選ぶのならこれにしようよ、こういうところが大事なんだよ。使い勝手がいいんだよ、ということを知ってほしいなと。そうやってユーザーにいいものを見る目を持ってもらうことが、自分がいいものを作ることにつながると思っています。文房具のおもしろさは“文具王”が伝えるのがいちばん簡単でしょ」

(1)文九郎
9つの文房具を装備した文具ロボ。1985年にサンスター文具から発売された大ヒット商品を高畑さんがリメイクした。「初代の文九郎は買ってもらえなかったんです。いい年になってから古い小さな文房具屋の隅っこで見つけて『これは!』って。でも、埃かぶってテープも固まっているのにまけてくれませんでした(笑)。2代目は見た目もアクションも変えています」

(2)スタンド付きルーペ
ふつうの手持ちルーペが写真のようなスタンド型に変形。もともと子ども用に発売されたが、シルバー層からの要望が多く、大人用のスタンドルーペもデザインした。

(3)とじ&トル
高畑さんの最近の会心作。 ステープラーのうしろの部分に紙を痛めずに針をとるリムーバーがついている。針がすっときれいにとれる感触はけっこう快感。

(4)でるけし
大ヒット商品。細かいところをいつでも消せる消しゴムとしては他社に「かどけし」がある。「向こうのほうが先に出て、ちょっと悔しかったですが刺激も受けました。これは負けられないと。アイデアとしてはかなり気にいっています」

(5)紙とハサミの芸
インタビューに答えながら、大きなハサミと紙でクリスマスツリーやカブトムシをまたたくまにつくる高畑さん。「紙とハサミがあれば一日中遊べます。小さいころから文房具に親しんできて、こんな芸ができるようになりました。今、たとえば殺傷事件があったから、子どもにナイフを使わせないようにしようということが果たしていいことなのかどうか、すごく気になります」


■information
高畑さんのホームページ
http://www.kunugiyama.com/~tower-st/index.html

他の特集を見る