「ことの起こりは、今から約1年前。普段は挨拶程度しかしない、同じマンションの下の住人が、突然訪ねてきて“バイクが倒れてますよ”と教えてくれたことでした」。当時、犬飼周治さんは、都下の賃貸マンションの2階に暮らしており、自ら宝物と称する愛車の『1100カタナ』(スズキGSX1100S)を、その敷地内に駐輪させていた。「バイクの盗難には、自分なりに気をつかっていました。それで敷地の外からは見えにくくて簡単には運び出せない場所に、特別に置かせてもらっていたんですが……」。驚いてバイクのところに行ってみると、バイクは横倒しに。さらによくよく見てみると、キャブレターとリアのサスペンションがない! そのときのショックたるや「まるごと持って行かれなかったのは、不幸中の幸いでしたが、正直、全身の力が抜けました」。もちろん警察には、スグに連絡した。けれど「過去にも2度、バイクを盗まれたことがありまして、そのときの経験から、もう絶対に取り戻せないだろうなと思いました」。
「警察に連絡したあと、知り合いのバイク屋に連絡して、引き取りをお願いしたんですが、時間が夜の8時過ぎだったこともあって、明日ということになったんです。だから一晩は、このままの状態で置いとくしてかなくて。この一晩が長くて、辛かったですね」。犬飼さんのバイクには、盗まれたもの以外にも、高額なパーツが多数付いていた。そのため犯人たちが、また戻ってくるのではないかという不安から、満足に寝ることができなかったそうだ。もちろん盗難のショックが重なっていたことは、想像に難くない。しかし普段は目につかない場所に置いていながら、どうしてそんな目に遭ったのか? 「バイクの整備などをするときは、通りに面した場所引っ張り出してやっていたので、それを犯人たちに目撃されて、目をつけられたんでしょうね」。犬飼さんのように、盗難に気をつかっていながらも、犯行を防ぐことはできなかった。窃盗犯に目をつけられたら最後、どうすることもできないのか? 「そんなことはないでしょうけど、私の場合は、同じ場所に何年も置いていて、なにもなかったから、多少気が緩んでいたんでしょうね」。巷には数多くの防犯グッズが販売されていて、それらを上手く活用すれば、犯行を防げる可能性は高くなる。ただ犬飼さんのように、パーツの盗難となると、防犯グッズの大半が、車両をまるごと持って行かれるのも防ぐものであるため、あまり有効ではないようだ。ではどうしたら? 「ガレージに入れるのがイチバンでしょうね。ガレージならば、パーツの盗難だけでなく、盗難全般に対して効果的といえるでしょうし」。

「でも、大都市圏の住宅事情は、みなさんご存知のとおりで、ガレージなんて簡単に持てるもんじゃない。簡易ガレージもあるにはあるんですが、どれも大きすぎて置く場所が確保できない」「バイク屋からバイクが戻ってきたら、また同じ場所に置かざるを得ないのに、どうしたらいいのか……。本当にアレコレと悩みました」。その結果、思いついたのが『ボックスガレージ・セルディ』だったのである。「最初は、ないものは自分でつくるしかない。というところからスタートして、で、どうしたら小さくできるのかを考えました。そしてあるとき、バイクの最大幅部はハンドル回りだということに気がついたんです」。これをキッカケに、犬飼さんのアイデアは急加速。箱型でありながら、ハンドル部分を外に逃がすことで、バイクの大きさギリギリにつくることができる、ボックスガレージ・セルディの基本形ができあがったのだ。「これを思いついたときには、これはイケる、そう感じました。それにこれなら、自分のように盗難で苦しむ人たちにも、役に立つのではないか。そうも感じて、ならばいっそのこと特許申請をして、自分と同じ境遇の人たちに販売しようと思ったんです」。
その後、犬飼さんは諸事情も重なり、神奈川県横須賀市に引越しをした。そしてそこで様々な幸運にも恵まれ、ボックスガレージ・セルディの特許申請、および試作品をつくり上げ、さらに製作・販売事業を立ち上げると同時に、横須賀市のベンチャー事業支援制度の認定も受けた。「大切にしているバイクが盗まれるということは、その立場に立った人でしかわからないほどの、ものすごいショックがあるんです。中にはそのショックで、バイクを降りてしまう人も。その気持ちはよくわかるんですが、反面とても残念にも思います。だからそうならないよう、自分も被害者のひとりとして、盗難防止の手助けができればと思っています」。バイクという楽しき乗り物、かつ素晴らしき趣味を共有するすべての人たちのため、盗難という憎むべき犯罪を少しでも減らしたいと願う犬飼さん。悲しき現実がなくならない限り、その思いが尽きることはなさそうだ。