ペットしつけインストラクター 井原 亮

ペットしつけインストラクター 井原 亮

犬の訓練士としつけインストラクターの違いを知っていますか?
ペットショップの動物が病気になったらどうなるか、考えたことがありますか?
ショーウィンドウに並ぶ動物たちの気持ちを考えたことがありますか?
かわいい動物たちのこと、ちょっとマジメに考えてみませんか?

子犬も子猫もいないペットショップ

井原 亮

小田急百貨店新宿本店のペットワールドDogs&Catsは、子犬・子猫の展示販売をしないペットショップである。これは欧米では当たり前のことだが日本ではかなり珍しいだろう。通常のペットショップでは「まず客に子犬・子猫を抱かせろ。そうすれば衝動買いする」とスタッフに教えるところが多いと聞く。幼い犬や猫のつぶらな瞳やあどけないしぐさを間近で見たら借金してでもその子を家に連れて帰りたくなる人が多い。つまり展示販売こそが利益を生み出すのだ。しかし、展示販売にはさまざまな弊害もある。犬のしつけインストラクターであり、ペットワールドDogs&Catsのスタッフでもある井原亮さんがその弊害を指摘する。
「親・兄弟からひきはなされてペットショップのショーウィンドウで暮らすことがストレスになり、体調を崩す子犬や子猫がとても多いです。最も大きな問題は、早い時期に親・兄弟からひきはなされると、社会性を学ぶ機会を逃すこと。特に犬にとっては社会性を学ぶことが、人間社会で暮らす上でとても大切です。ペットショップに展示される生後1ヵ月半〜3ヶ月頃というのは、犬の社会化にとって最も重要な時期なのに、親兄弟とも新しい(人間の)家族とも接することができないというのは、その子の一生を左右するくらいの大問題なんです」
ペットワールドDogs&Catsでは、しつけ教室のパピー(子犬)クラスを受講することに同意した人にしか子犬を販売しない。犬が欲しいという人が現れてからブリーダーを探し、実際に子犬を見て家庭犬として飼いやすい子犬を選び、ブリーダー宅から直接飼い主宅へ連れて行き、その日のうちにトイレのしつけを行いやすいようにセッティングし、飼い主にしつけ方を説明する。この方式にしてから、販売後に問題行動を起こすケースはほとんどないという。

しつけは犬に人間社会のルールを理解させること

井原 亮

犬の訓練士としつけインストラクターの違いに触れておきたい。一般的に、訓練士は犬そのものを訓練するが、しつけインストラクターは飼い主にしつけの方法を教える。訓練は犬を人間に服従させることを目的とするが、しつけは犬と人間の信頼関係を築き、人間社会のルールを犬に理解させることが目的だ。井原さんがしつけインストラクターを務めるCan! Do!のしつけ方教室では犬を叱ることは一切ない。何度か見学し、インストラクターの方々のお話を伺って「いかにしてほめる機会を作るか」を工夫するのが基本なのだと感じた。ほめてしつければ、犬もトレーニングを楽しむようになり、好奇心旺盛な賢い犬に育つ。そんな犬と暮らすのはきっと楽しいだろう。犬を飼ったらしつけ教室に参加する、ということが常識になったら、犬も飼い主も周りの人もみんなが気持ちよく暮らせるはずだ。
井原 亮しかし、しつけ方教室参加を義務付けると犬の購買希望者はグンと減るのが現状だと井原さんはいう。
「展示販売をしたほうが利益は出ます。でも衝動買いは犬のためにも人のためにもならないことが多いんです。犬の習性もしつけのノウハウも知らない人がぬいぐるみ感覚で犬を飼い始めると、無駄吠えや噛み付きなどの問題行動を引き起こす可能性が高くなります。問題行動が発生するとオーナーさんも大変だし、そのせいで犬を手放すケースも多いですから犬にとっても不幸なことですよね。だから、犬がほしいという人が現れたらまずじっくり話をします。ひとり暮らしで多忙な人が、運動をたくさんさせないといけない犬種をほしがっていたら、犬種を変えるようアドバイスします。そもそも犬の散歩をする時間もないような人が犬をほしがったら、猫やハムスターなどを勧めるでしょうね」
最近はひとり暮らしでペットを飼う人はとても増えているという。しかしひとり暮らしで犬を飼うと社会化に失敗することがあるそうだ。
「女性はあちこちに愛犬を連れて行くし、友達を家に呼ぶことも多いので、犬の社会化がなされやすいですが、ひとり暮らしの男性に飼われている犬は人見知りする傾向が強いです。実は私の愛犬も、人見知りするんです。毎日店につれてくるようにしているし、たくさんの人に会わせる努力も一応したのですがその他の外部の人にならすことが足りなかったようです。ひとり暮らしで犬を飼うなら、最初の半年くらいは自分を時間を捨ててでもいろんな場所に愛犬を連れて行き、いろんな人に遊びに来てもらって犬に社会性を身につけさたほうがいいです。そして、しつけ教室に通って、飼い主は問題行動を予防するためのしつけのノウハウを学び、犬にほかの犬と触れ合わせて社会性を学ばせることも強くお勧めします。とにかく犬のしつけは最初が肝心ですから!」

ペット業界を変えていきたい。

井原 亮

井原さんが、犬の社会化やしつけの必要性を強調するのは「動物はモノじゃない」という意識を強く持っているからにほかならない。井原さんは、以前勤めていたペットショップで小動物を担当していたが、皮膚病にかかって売り物にならなくなったうさぎを「処分」するように店長から指示されたことがある。そしてそれがきっかけとなりペットショップをやめた。また、ペットショップ内で動物が死亡した場合、亡骸はゴミと一緒に捨てられることが多いそうだ。でも、当時はそのことに疑問をもっていなかったと井原さんは振り返る。
「生き物を展示販売すると、どうしても商品としてしか見られなくなってしまいます。そしてその業界にいると、それが普通になってしまうんです。私はたまたま、うさぎを処分することができなかったけれど、1回やったら平気になってしまって疑問も持たなかったかもしれない。それは異常な世界ですよね。異常であるということに気付く人が増えないとこの世界は変わらない。だから、私が動物の専門学校で教えるときは、『展示販売はよくない』ということを、訴え続けています。私が教えた子がペット業界に入り将来偉くなったら、生体の展示販売をやめようと言い出してくれるかもしれないと期待して。いつかペット業界を変えられたら……と、草の根運動をしているわけです(笑)」
いつの日か、井原さんの草の根運動が実を結び、人と動物双方にやさしい社会が実現することを願ってやまない。


■Plofile
井原 亮
Can!Do!Dog School 専任チーフインストラクター
専門学校 ちば愛犬動物学園のしつけ実習講師
小田急百貨店ペットワールド Dogs&Cats スタッフ
『子いぬと仲良くなる育て方 しつけ編』(ベネッセコーポレーション)監修
パートナー犬:そら(♂ 4歳5ヶ月)
愛猫:いち(♂ 5ヶ月)
Can! Do! Dog School  電話 03-5315-5271
http://www.petcom.jp
※ 小田急百貨店新宿本店屋上、Can! Do! Dog Scool成城本校等で犬のしつけ方教室を開催。

現在はSkyWan! Dog Training Schoolに所属。
http://www.sky-wan.com/
連絡先:090-6024-4835

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