利酒師。
文字だけを見ると、酒の銘柄を当てる人に誤解しがちだが、利酒師とは日本酒と料理をコーディネートし、いかにおいしく飲んでもらうかを提案する、いわばソムリエのようなものである。今でこそ、女性の利酒師が珍しくなくなったが、私が資格を取得した8年前は稀有な存在であった。なぜ利酒師になろうと思い立ったかというと、それにはこんなワケがある。
当時31歳だった私は現役バリバリの女性週刊誌の記者。その頃は今のようにインターネットが普及していなかったこともあり、女性週刊誌が売れに売れた時代。実入りのよさがハンパではない分、不眠不休の日々を送っていた。
体は辛いけど、黙っていても仕事とお金が入る生活に慣れ、元来怠け者の私はぬるま湯にどっぷり浸かっていたように思う。
しかし、そんな安定した生活がある日突然崩壊した。売り上げが激減したのと同時に、これまで第一線で働いていた先輩記者たちが次々とクビを切られていったのである。考えてみれば私も31歳。他社に売り込んだとして、「何でも書けま〜す」
と言って、使われるような年齢ではない。「何かのスペシャリストになろう」と、まず思い立ったのがオシャレなワイン関連。
だが、ワインは既に田崎真也氏がダントツの勢いでメディアに出ており、今更ズブの素人である私が彼の右に出られるワケない。ならば、と思って目をつけたのが利酒師だった。
女31歳、やや遅い「気づき」であった。
崖っぷちの成績で何とか資格を得た私は、早速個人の名刺に「利酒師」と入れてみた。これが思っていた以上に効果的で、会う人のほとんどが「お!」と注目してくれた。実際の利酒師の仕事は、飲食店でしか生かせないと思っていたが、私には「書く」という技術がある。そして、たまたまパーティーで出会った書籍の編集者が目をかけてくれ、初著の出版となったのである。その偶然の一冊が私の人生を大きく変えるきっかけとなった。次第にお酒関連記事の執筆を依頼されるようになり、ついには取材する立場から、取材をされる立場に変化。「資格」というものが、こんな大きな武器になるとは、私自身、想像もしていなかった。資格取得にはそれなりの投資が必要だが、投資した以上のものが返ってくる。
そのことを身をもって実感した。現在、利酒師としての仕事は各メディアでのコメントと執筆がメイン。恥ずかしながら、ごくたまに本人が誌面に出て、おいしいお酒の飲み方を指南したり、蔵元のナビゲートをすることもある。数年前、焼酎アドバイザーの資格も新たに取得し、今は日本酒と焼酎の2本立てで活動している。
35歳を過ぎ、それまでの利酒師の仕事にエッセンスが加わった。それは「おひとりさま」である。
「おひとりさま」とは、精神的に自立をした女性のこと。ひとりでは無論、他人ともうまく共存できる、真の意味での大人を指す。もともとの提唱者は、ジャーナリストの故・岩下久美子氏。私は縁あって、彼女の遺志を後継し、「おひとりさま向上委員会」の代表を勤めている。仕事も兼ねて、ひとりであちこち食べ歩いているうち、利酒師の仕事がジョイントするようになってきた。
ひとりでお酒を飲む店、ひとりでお酒を楽しむためのコツ・・・・・、そんなことをメディアから求められるようになったのである。
「おひとりさま」を後継したばかりの4年前は、意地の悪い輩からやっかみ半分で、「他人のふんどしで相撲をとっている」と言われたりもしたが、これまでやってきた自分のスキルをプラスすることで、そうした声もじょじょに聞こえなくなってきた。
単なる岩下氏の「語り部」ではなく、「おひとりさま」を自分の言葉で語れるようになったのは、それまで築いたスキルが支えてくれたのだと思う。1つのことを極めるということは、さまざまな方面に応用がきくのだと思った。
来年、私は40歳を迎える。女性の平均寿命を考えれば、ちょうど折り返し地点だ。今、私が目指しているのは、世の女性たちをもっと元気に、生き生きできる社会を創ること。岩下氏の知的財産でもある「おひとりさま」という定義に出会い、すべての人間にとって精神的自立は欠かせないものだということを痛感した。そしてそれはパートナーとのいい関係を保つためにも必要だということも。「晩婚化」、「少子化」という言葉が毎日メディアを飛び交う今、そうした現状を変えていくのが「自分軸」をしっかり持った「おひとりさま」という精神ではないかと思う。
夫婦であっても、どちらか一方に依存することなく、それぞれが自分の「心の足」で立つ。そうすることで、互いのメンタル的な負担がなくなり、各自が「自分らしく」生きることができるのではないかと思う。
・・・・・、なーんて初回だからカッコつけて、ちょいとおカタく書いてみました。もっとくだけて言えば、仕事も家庭もそして育児も楽しくできるような社会の起爆剤に自分自身がなれたら、と願ってる。そのためには、もっともっとスキルを磨いて、皆から「あんな風になりたいな」と思ってもらえるよう、がむしゃらにがんばるっきゃないでしょう。

「おひとりさま向上委員会」代表・エッセイスト
ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、エッセイストに。「ひとりを楽しむ」エキスパートとして、雑誌、テレビなど各メディアで活動中。また、利酒師、焼酎アドバイザーとしての顔も持ち、各誌にコメント、コラムを寄稿する。連載は「究極の女磨き おひとりさま入門」(小学館/Oggi)、「日本の酒と晩酌小物」(エイ出版/東京生活)、「ひとり焼肉できますか?」(月刊やきにく)ホテルの宿泊体験エッセイを記した「おひとりさまの休息」(旅先案内人)、自らの足で探した店が満載の「おひとりさまの食卓」(ぐるなび)など多数。
著書に「日本全国決定版 この日本酒がウマい!」(KKベストセラーズ)、「利酒師・葉石かおりの隠れ酒がうまい!」、「女は年下男が好き」(ともに講談社)、「カッコイイ女はおひとりさま上手」(PHP研究所*韓国翻訳版も刊行*)、「ビバ!!年下婚」(光文社)、「東京 ちょい飲み巡り」(ネコ・パブリッシング)他。近日、新しい結婚の形、パートナー選びの方法を描いた「30歳からの結婚」(仮題・三笠書房)が刊行予定。また現在、出産を踏みとどまる女性たちの本音をルポルタージュした「産まない理由」(仮題・イーストプレス)を鋭意執筆中。

「仕事帰りに、待ち合わせに、自分らしく過ごせる空間がうれしい。
ひとりでも、女性だけでも、ふらっと寄って楽しめる立ち飲み屋50店を厳選紹介!」